痴漢やセクハラが疑われる行為の判断において、適法か、適切かという問いには、「適法だけでは不十分」というのが昨今のハラスメント対策でしょう。昨年約30社で「イクボス企業同盟ハラスメント対策研究会」を実施しました。登壇した先進企業は4社。なるべく企業の皆様がホンネで話し合えるように非公開としました。
財務省の事件の直後だったので、多くの日本企業の人たちが「メディアは10年、20年遅れているのではないか。うちの企業はセミナーも窓口もある」と「適法な対応をしている」ことを強調しました。そうしたらある外資系から転職した女性から「日本の企業にきてみたら、20年タイムスリップした感じでした」という発言が!
日本企業の対応が20年遅れなら、メディアと霞が関はさらに20年遅れ。なんと40年遅れです。つまりセクハラが流行語大賞をとる以前の認識しかないのてす。窓口があり、啓発研修がありと、措置義務を守っている企業でもそれたけではハラスメントは防止できない。それは昨今SNSで噴き出てくる #MeToo でもわかります。
企業にはセクハラの防止に努める義務がありますが、措置義務があるセクハラですら、それだけでは防止できない。今まで措置義務がなかったパワハラについてはもっと野放しでした。「働き方改革実行計画」で決まり、閣議決定で「パワハラ防止」は企業の措置義務とされました。また「ハラスメントは行ってはならない」という文言が報告書(「女性の職業生活における活躍の推進及び職場のハラスメント防止等の対策のあり方について」)には入っています。これに基づいて法律ができます。
セクハラ、パワハラについて、新しい規定も追加されます。近年ハラスメントへの懲戒を取材すると多くの企業て厳しくなっていました。しかし「ちゃんと調査せすに、飛ばして (異動させて) なかったことにする」という「ことなかれ主義」の対応もあり、男性社員や上司が恐怖に怯えることになります。それは良くない対応てす。通報後の納得できる対応が求められます。
甲告を待つという受け身の対応ではなく、先進的な企業ではすでに申告しなくても、ハラスメントに介入する仕組みがあり、また会社のリスク、生産性、人材獲得に関わる問題として重視されていました。
この変化は「規範カスケード」といって、「社会的慣習の突然の変化をもたらす、一連の長期的トレンド」で「後戻りできない」のだそうです。後戻りできないなら、アップデートして対処するしかありません。
痴漢やハラスメントは「人権問題」でもあり、職場の生産性、リスクマネジメント、人材獲得に関わる重大問題です。人権といってもピンとこない男性こそ、もしかしたら「職場で家庭で人間として扱われていない」のかもしれません。でもそんな時代も終わりです。仕事という枠に人間を当てはめる仕事中心のマネジメントから、個々をありのままに大切にする「人間中心」のマネジメントへ、時代は動いていきます。企業はそうしないと生き残れないからです。
組織で未然にハラスメント防止をすることは個人にとっても大事です。内藤忍さん (労働政策研究・研修機構副主任研究員) は多くのセクハラ、パワハラ事案を調査してきた経験から「労働局で相談や調停をしても和解金は非常に安く15万~30万ぐらい。そこに至る時は被害者は会社を辞める覚悟ですし、心身に不調をきたし、その後正社員に復帰できない人も多いのです。セクハラに限らないハラスメント被害の2017年の連合の調査によれば、被害者の33.1%が心身に不調をきたし、夜眠れなくなったり (19.3%)、人と会うのが怖くなたり (12.2%) しています」と深刻な被害を語っています。このように、今こそ、日本の職場では意識改革が必要であるといえます。